月夜見
   
“春と言ったら?”
         〜大川の向こう

 
全国的に話題になったほどの雪こそさして降らなんだけれど、
それなりの寒さには襲われて。
だっていうのに、
そこは世間を知らないからこその罪のなさ、
寒かっただけで雪は降らなかったのを差して
“つ〜まんな〜い”などと口々に言い立てるほど。
子供らが相変わらずにお元気な、
こちら、とある大きな川の中洲の小さな里にも、
いよいよの、待望の、待ってましたの春が来て。
公園や船着き場、取水口近くなどなどに植えられている
自慢の桜も見事に満開となり、
年頃や職場別に、昼に夜にと花見の相談も盛んとなりつつある中。
駆け回っているうちに上着をどっかへ置いて来てしまう腕白たちへ、
探して来いと叱り飛ばすお母さんのお声もある意味“風物詩”なら、
神社の境内や丘の上の公園など、
さほど多くはない遊び場のあちこちで、
お下がりもいまだ当たり前に為されている里なため、
名前があっても今現在は誰のだか判らないのと、
あとは…躾けのために、わざわざ届けてあげる大人は少なくて。
どうせ明日も此処で遊ぶ子なんだろしと、
風に飛ばされないよう、
常夜灯の支柱やブランコの柱なんぞにくくってもらった
子供用のジャンパーが夕方のそこここで目につくのも、
ああ春だねぇなんて、大人たちに感じさせる
この頃合いの風景の一つだったりして。

 「る〜ふぃ〜

まだまだ小さい組ながら、そういう腕白たちの筆頭でもある、
里で一番人気の王子様。
ここいらの流域全般での荷船を運用している会社の社長の次男坊、
ルフィ坊やも、その“忘れ物”の常連であるらしく。
ご神木の案内板の支柱にくくられてあった上着の、
あまりの鈴なりっぷりに(笑)
おみくじじゃないんだからと見かねたか、
神社の宮司さんの奥様が、
わざわざ持って来てくださった上着が何と8枚もあり。

 『ルフィちゃんはいつもハイカラなの着てるし、
  何と言っても可愛らしくて目立つからねぇ。』

しっかと名前が記されていたことも勿論あったし、
全部同じ名前で、しかも真新しいということは、
誰かのお下がりとも思えない。
それより何より、
それを着て駆け回ってた姿は印象的だったので、
ああ、あの子のだねぇと、
宮司さんご一家ならずとも、すぐに持ち主が判ったそうで。
8枚も取っ替え引っ替えできるなんて衣装持ちなんだねぇと、
感心しちゃったらしい奥さんには悪気もなかろうが、

 「そうまで物を粗末にしとると、
  その内 バチが当たるぞと注意されたよなもんだぞ、お前

あまりに愛くるしいもんだからと、
他でもないこのお父上ご本人が猫っかわいがりしてのこと。
兄のエースのお下がりではサイズのみならず、
似合う雰囲気
(カラー)も違いすぎるのでと、
やたら新しいお召し物を揃えたからこそ、
どこかへ忘れて来ても困りはしない、
“ま・いっか”で済まして来たルフィさんだってのに。

 「バチが当たるは良かったよなぁ♪」
 「エース、聞こえちゃうわよ?」

お説教に水を差しちゃあいけませんと、
マキノさんが口元へ人差し指を立てて見せた…ところまで。
キッチンで交わされていたそんな会話が、
まんま筒抜けのお茶の間では、

 「〜〜〜〜。」

日頃はルフィを甘やかしまくり、
なのにご本人へはからかい半分な態度が多いせいで、
まったくの全然通じてないという、
素直じゃないやら不器用なやら、
いろんな意味で困った父であるシャンクスさんが、
いつになくの珍しくもお説教モードであるがため。
ルフィの側でも神妙になってのこと、
小さなお膝を正座に畳み、四角く座って拝聴してはいたのだが。

 「………シャンクス。」
 「なんだ。」

申し開きや、ごめんなさいなら聞いてやろうと、
懐ろ深い父として、厳かに応じたそんな彼だというに、

 「もう終わりか?」
 「………はい?」

 オレ、今日は“とっきゅうじゃー”の色決めがあるから
 どーしても公園に行かなきゃなんねんだよと、

 『大事な寄り合いがあるみたいに言うかな、あのヤロめ

新しく始まった戦隊ものの、
ごっこ遊びのときにどの役をするのかの優先権、
それを決めるという、
おちびさんたちにはなかなか大事な集まりがあるそうで。

 『だってよ、今年のは赤が なんかケーハクだし。(失敬な・笑)
  オレいつも緑か黒がいいって言ってんのに、
  気がついたら赤いのばっかなんだよな。』

何でも、変身の決めポーズを
真っ先の一番上手にマスターしちゃうからだそうで。
後から出て来る奴とかのほうが
なぞの過去とかあって凄げぇカッコいかったりすんのにさ。
あと、赤の役って倒されかかる話も多いから
そんな真似っこもあっていちいちメンドクサイのにサ、なんて。
既にいろんな方面へ罰当たりなお言いようを
公然となさっておいでのルフィさんだったりするのであり。(ホンマに…)

 「まあ、もういいよ。」

こりゃあ何を言ったところでろくに聞いてねぇなと、
やはりキッチンからの大小それぞれの笑い声を聞きながら、
早速サジを投げたお父様が どこへなりと行けと手を振れば、
にゃは〜と嬉しそうに微笑った坊や、

 「じゃあ行ってきます。……っつって、イテぇ〜〜〜。」

ところが、立ち上がり掛けたそのまんま、
バランスが保てず あやあやと畳の上へつんのめってしまったのは、

 「…お前なぁ、ほんの5分も座ってなかったのに もう痺れてどうすんだ。」
 「ふえぇえ〜〜〜。」

あらあら大変と立って行ったマキノさんを送り出すよに、
エースお兄ちゃんが“あっはっはっ”と大爆笑したのは言うまでもなくて。
ほのぼの暖かい春の到来、
あんまり羽目を外さないようにねと、
どこかの梢で尾の長い小鳥が、
チィチィと応援するよに鳴いてた、卯月のとある朝でした。





     〜Fine〜  14.04.03.


  *三寒四温どころか、連日GW並みの気温になっておりますが、
   花粉の猛威以上に桜の満開っぷりを観に行きたい今日この頃。
   ゾロ兄ちゃんは出て来ませんでしたが、
   坊やがカッコいいところを見せたい筆頭だと思われますんで、
   今年こそは緑のポジションをゲットして、
   お兄さんへ見事なキックをご披露してください。(違)

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